東京地方裁判所 昭和47年(ワ)198号 判決 1972年8月18日
原告
滝島ヨネノ
ほか三名
被告
吉田映二
主文
被告は、原告滝島ヨネノに対し二七一万九〇〇〇円、原告滝島美津子に対し一九九万四〇〇〇円、原告久我小夜子に対し一七三万九〇〇〇円、原告滝島キヨウに対し七九万円及びうち原告滝島ヨネノにつき二五九万九〇〇〇円、原告滝島美津子につき一八九万九〇〇〇円、原告久我小夜子につき一六五万九〇〇〇円、原告滝島キヨウにつき七五万円に対する昭和四七年一月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求を各棄却する。
訴訟費用は、その二分の一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
この判決は仮執行することができる。
事実
当事者の求める裁判
原告ら「被告は、原告ヨネノに対し五三一万円、同美津子に対し四五七万円、同小夜子に対し四〇八万円、同キヨウに対し一〇四万円及びうち原告ヨネノにつき五〇三万円、同美津子につき四三三万円、同小夜子につき三八四万円、同キヨウにつき一〇〇万円に対する昭和四七年一月二二日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行宣言。被告「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決。
原告らの主張(請求の原因)
第一事故の発生
滝島健三は、次の交通事故によつて死亡した。
一 発生日時 昭和四六年四月一〇日午後九時三五分頃
二 発生地 東京都中野区中央四丁目五九番七号付近路上
三 加害車両 自家用小型貨物自動車(多摩四さ二七一一)被告運転
四 被害者 滝島健三 男 当時五四才 当時東京ウエスターン交通株式会社取締役
原告ヨネノの夫、同美津子、同小夜子の父、同キヨウの娘婿
五 事故の概要
被告は、加害車両を運転して、本件事故現場付近を、中野駅方面から青梅街道方面へ進行中、酪酊のため制限速度違反(時速約七〇キロメートル)且つ前方注視義務を怠り、折から該道路を横断中の被害者を右車両の前部ではねとばし、よつて頭蓋内損傷によりその後人事不省二日の状態を経て死亡に至らしめたものである。
第二被告の責任
被告は、前述の過失により本件事故を発生させたのであるから民法七〇九条により責任がある。
第三原告の蒙つた損害
一 逸失利益
亡健三は、事故当時東京ウエスターン交通株式会社の取締役総務部長として二〇〇万円の年収があり、生活費は月二万五〇〇〇円―年額三〇万円
(内閣総理府編昭和四五年版日本統計年鑑四〇八頁
世帯人員四・四四、有業人員一・七六、世帯主の年令四九・六の法人経営者世帯の平均一ケ月間の支出は金一〇八、一三二円であるから一人につき金二四、三五四円。
因みに、全国全世帯平均一ケ月間の支出は、世帯人員三・九九、有業人員一・六五、世帯主の年令四三・七の場合金七〇、三八六円である。)
であるから、同人は年額一七〇万円の純益を得ていたことになる。
しかして、同人は当時五四才であつたので本件事故がなかつたとすれば、少くともこの先九・七年は就労可能であり、これをホフマン式計算方法により一時金請求金額に換算すると一三、五〇万六五〇〇円となる。
健三の死亡により、右逸失利益の損害賠償請求権につき、原告ヨネノ、同美津子、同久我小夜子は各その三分の一を相続した。
右金額のうち、右原告それぞれ四五〇万円ずつの支払を請求する。
二 慰藉料
(1) 健三の死亡により、原告ヨネノはその妻として、原告美津子、同久我小夜子はそれぞれその娘として筆舌に尽しがたい精神的苦痛をうけた。これらに対する慰藉料は、原告ヨネノについて二〇〇万円、同美津子については一五〇万円、同小夜子について一〇〇万円を下らない。
(2) 原告キヨウは、健三の義母(妻の母)という関係にある。健三は所謂“入り婿”で戸籍上養子縁組の届こそないが、妻ヨネノと昭和二一年六月七日入夫婚姻以来、滝島家の一員として同原告と終始生計を共にし実質母子のように気心の通い合つた仲であり、また右原告は健三の扶養の下に安楽な生活を送つていたものである。かかる場合、原告キヨウに固有の慰藉料請求権を認めて当然である。
右原告の慰藉料は一〇〇万円を下らない。
(3) 以上の慰藉料算定にあたつて特記すべき事情は左の如くである。
Ⅰ 亡健三は、生計の支柱として一家の中心人物であつた。健康状態も概めて良好であり、五四才という年令を考えても油ののり切つた人生最高の稼働時期であつた。
Ⅱ 本件事故により同人を失つたため原告ら一家は今後いばらの人生を歩まざるを得なくなつた。特に、原告ヨネノにおいては夫婦の老後の生活設計の破綻はもとより今後の日々の生活を如何にすべきかに迷う窮境にある。
原告美津子も適齢期としてしかるべき配偶者をと願つていたが、これとても父の死亡により結婚につき不利な条件を負うに至つた。
Ⅲ 加うるに、被告は本件賠償につき全く誠意を示していない。
第四弁護士費用
原告らは昭和四六年一二月七日本件訴訟を原告ら訴訟代理人両名に委任するにあたり、原告ヨネノにおいて着手金として二〇万円を支払うとともに成功謝金として第一審請求認容額の一割の支払を約したので右合計一六〇万円のうち、一〇〇万円の支払を被告に請求する。
第五結論
一 以上の損害金を各原告別に合計し、かつ弁護士費用を割りふると左の表の如くなる。
<省略>
二 原告らは、自動車損害賠償責任保険の損害五〇〇万円の支払をうけたのでそれを原告らの請求額合計からそれぞれ控除すると本訴訟における各請求額は次の如くなる。
<省略>
原告ヨネノは五三一万円、同美津子は四五七万円、同小夜子は四〇八万円、同キヨウは一〇四万円の支払及び原告ヨネノは右請求額から弁護士費用のうち未払分二八万円を控除した五〇三万円につき、同美津子は、右請求額から弁護士費用二四万円を控除した四三三万円につき、同小夜子は、右請求額から同費用二四万円を控除した三八四万円につき、同キヨウは、右請求額から同費用四万円を控除した一〇〇万円について、それぞれ本訴状送達の翌日である昭和四七年一月二二日から右支払完済に至る迄、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ被告に請求する。
被告の主張
第一答弁
一 請求原因第一の事実のうち、一―三の事実、同四のうち被害者の氏名、性別、年齢、同五のうち被告が加害車両を運転して本件事故現場付近を中野駅前方面から青梅街道方向に進行中、同車両の前部で被害者をはねとばし、よつて同人に頭蓋内損傷を与えたことは認めるが、その余は争う。
二 同第二ないし第五の事実は争う。
第二抗弁
被告は、前記日時場所において加害車両を運転し、時速約三五キロメートルで進行中、歩道があるのに拘らず雨降りの車道を泥酔して歩行中の被害者に、急制動の措置をとつたが及ばず、前記のとおり衝突するに至つたもので、過失相殺がされるべきである。
証拠関係〔略〕
理由
第一事故と責任
原告ら主張の日時場所において、被告運転の加害車両が中野駅方面から青梅街道方向に進行中、被害者健三(男、五四才)を車両前部ではねとばし同人に頭蓋損傷を与えたことは当事者間に争がない。
〔証拠略〕によれば、被告は同日午後九時頃練馬区の自宅で清酒約〇・一八リツトルを飲み、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有しその言動が正常でない酩酊状態で加害車両を運転し、歩行者である被害者健三をはねとばして、同人に前記傷害を与えこれにより同月一二日午前一一時四三分死亡するに致らしめたものであることが認められる。
被告の抗弁事実については、これを証するに足る証拠はない。
してみると、被告は、本件事故発生につき、酩酊運転等の過失があるというべきであつて民法七〇九条により、原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務がある。被告の過失相殺の抗弁は採用しない。
第二損害
一 逸失利益
〔証拠略〕によれば、健三は、事故当時原告ら主張の会社の取締役、総務部長であつて、その年収が一四七万六〇〇〇円であつたことが認められる。
〔証拠略〕によれば、原告ヨネノは健三の妻、同美津子(未婚)、同小夜子は子、同キヨウは妻ヨネノの母であつて、そのうち原告小夜子を除く三名は健三と生活をともにし、右収入により生活しているので、原告ヨネノは昭和二一年亡健三と入夫婚姻し、その頃から原告キヨウは健三と生活をともにしてきたことが認められる。
以上の事実によれば、亡健三は本件事故にあわなければ、その後六三才に至るまでの九年間右程度の収入を得、そのうち三割程度をその生活に必要な諸費用として要したものとみるのが相当であり、右各年の逸失利益を遅延損害金の起算日以降本件判決前はホフマン方式、その後はライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して昭和四七年一月二一日現在の価値を概算すると、七七〇万七〇〇〇円となる。
右健三の逸失利益は、妻あるいは子である原告ヨネノ、同美津子、同小夜子に各1/3ずつ相続されたので、右各原告の取得額はそれぞれ二五六万九〇〇〇円である。
二 慰藉料
前記諸事情を考慮し、健三の事故死による原告ら固有の慰藉料としては、原告ヨネノにつき一五〇万円、同美津子につき一〇〇万円、同キヨウ、同小夜子につき各七五万円を相当とする。
三 弁護士費用
〔証拠略〕により請求原因第四の事実が認められるところ、本件訴訟の経緯、認容額等を考慮し、次の金額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
原告ヨネノ 着手金二〇万円 謝金一二万円
同美津子 謝金九万五〇〇〇円
同小夜子 謝金八万円
同キヨウ 謝金四万円
第三結論
以上の損害合計から既に支払われたことを原告らが自認する自賠責保険の補償金を控除すると、
原告ヨネノは二七一万九〇〇〇円、同美津子は一九九万四〇〇〇円、同小夜子は一七三万九〇〇〇円、同キヨウは七九万円及びうち弁護士謝金を除いた各金員(ヨネノは二五九万九〇〇〇円、美津子は一八九万九〇〇〇円、小夜子は一六五万九〇〇〇円、キヨウは七五万円)に対する本件訴状送達の翌日以降であることが記録上明らかな昭和四七年一月二二日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を被告に対し求めることができる。
原告らの本訴請求は、右限度で認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高山晨)